15日

日々の仕事に忙殺されていく中で、
貴方に起こったできごとを少しずつ、消化しようと試みた。

ふと、住んでいる市のキャンペーンが目に止まった。
宿代が5000円引きになるとあった。

家に居ても、貴方のことばかり考えてしまって悲しくて辛くてどうしようもないので、家から少し離れようと思った。
そのまま宿を予約した。

数日後、見事に予約を忘れていた。
面倒になってキャンセルしようかとも思ったけど、自分の住んでいる都市が活性化するように、また、死のことについて考えることから離れる機会なのかもしれないと思った。
出勤前、服や充電コードをエコバッグに詰め込んだ。
二泊3日くらいだったと思って、適当に詰めて仕事に行った。

仕事が終わって、その宿に向かった。
場所すらも把握していなく、グーグルマップで検索してたどり着いたのは15階のホテル。

まだぼんやりとしながら、ホテルの方から説明を受ける。三泊4日と言われて、ああそうだったっけ、まあどうでもいいと思ってそのままチェックインした。終わり際にクーポンを貰った。ありがたく受け取って、部屋に向かった。

ダブルベッドは広くて、テレビも大きかった。大きなベッドにダイブして、ゴロンと横になった。
晩御飯を食べなければ、と思った。早速もらったクーポンを使うために近場で使えそうなところを探す。

近くのスープカレー屋さんへ。
向かっている最中、普通なら賑わっているはずの路面店は一様に『コロナのため休業』と張り紙がしてある。
予約していたスープカレー屋さんに着く。
夕食時ど真ん中というのに、客は一組しかいなかった。悲しい気持ちになる。
テイクアウトでカレーを受け取った。底に手を当ててみると、熱かった。
久しぶりに人が作った食べ物だと思った。

そのままブラブラと街中を歩く。
人は多いものの、店自体は閉まっているところが多い。賑やかなはずの我町はまるでシャッター街のようになっている。

必要なものを買い込み、ホテルに戻る。
エレベーターにキーを翳さないと宿泊階に向かわないので、翳す。

部屋に着いて手を洗い、スープカレーを少し温める。辛さをマイルドにしたせいで美味しさも感じる。テレビを見て、お風呂をためてゆっくりとお湯に浸かる。

長い一日だ。あと2日ある。でも私は確信していた、この宿泊はリフレッシュになる、間違いなく。


二日目。また宿に帰宅。
明日になったら雨が猛烈に降るらしい。少し悩んで、藻岩山に行くことにした。夜景がきれいだと有名だったが、生憎行ったことがなく、また今は無料だったのでふらっと行ってみようと思った。ご飯は食べずに行くことにした。

また検索を使って行き方を調べる。
久しぶりに路面電車に乗り、ロープウエイ駅まで向かう。内回りと外回りがわからなくて手こずったものの、無事駅についた。
平日の夜だというのにとてつもなく混んでいて、何回か諦めかけたものの、ここで諦めたら今までの待ち時間が勿体無いと思い辛抱して待つ。
結局1時間後に山頂に着いた。

待ってよかった、と思った。
f:id:mayamayuko:20200807220500j:plain

来てよかったと思った。
そして、春馬くん、きれいだよ、生きてないとこれは見られないよ、とも思った。

少し目が潤んで、目をこすりながら夢中で撮影した。

充分楽しんだあとに帰路に着く。
近くのコンビニでまたクーポンを使って晩御飯を調達した。
最近は食べることに全く喜びを感じていないので、お腹が減ったからお腹に何か入ればいいというスタンスで食べている。
適当に選んだものを食べて、お風呂をためて、買った入浴剤を入れて入る。この時間が至福のときになりつつある。
ついでに部屋に選択気がついているので洗濯もした。

最後の夜は、なかなか寝付けなかった。
寝付けないときにいつも貴方のことを考える。
あなたの生きている痕跡を見つけたくて、あなたの名前を検索し続ける。
勿論、くだらないことを言っている週刊誌は無視する。
あるツイートが目に止まる。
『もう誰も嫌いになりたくなくてこういう結果を選んだのかな』
息が止まって、涙が溢れた。
わかるような気もするし、わからないような気もする。
嫌いになりたくないというより、嫌いになったことがないんじゃないかな、それくらい貴方は善人に見えたから。

また少し泣いて、眠りについた、最後の夜。


本当は少しだけ、この幸せな最終日で終わったら気持ちいいだろうなと思った。
でも、私にはその勇気はない。
だからあなたを思って泣くことしかできない。

三泊4日の逃避行はとても楽しかった。
純粋にホテル住まいというものが幸せだった。
その時間は非現実的で、いろんな柵から逃れることができた。
あなたにも同じことをさせてあげたかったよ。

あなたが生きていないことはまだ受け止められないけど、私は生きてる。
この悲しみはなくならないけど、それでも、あなたの選択肢を受け入れなくては前に進めないんだなと思う。
努力家で完璧主義なあなたにとっては、さぞ生きにくかったろうね。
コロナで自粛させられて、好きなこともできないのに、仕事だけ詰められて。
きっとあなただからこそ、ここまで頑張れたんだろうなと思う

それでも。私はまだ貴方の名前の横に死亡の文字がついていることが受け入れられないよ。また、空を見るね。天にかけていった貴方を探すね。